視察先 :和歌山県和歌山市
視察内容:リノベーションまちづくり事業について

1.はじめに

和歌山市では、増え続けている和歌山市中心部の遊休不動産を再生・活用して、機能や性能を向上させ、生まれ変わった遊休不動産を核に、まちに雇用と産業を生み出しエリアの魅力を高めることを目的に、公民連携のもと、リノベーションによるまちづくりに取り組んでいます。

「リノベーションまちづくり」とは、今あるもの(遊休不動産・公共空間)を活かして、新しい使い方をしてまちを変えることで、民間自立型のまちづくり会社が、遊休不動産や公共空間のリノベーションを通じて都市型産業の集積を図り、雇用の創出やコミュニティの活性化等につなげています。遊休不動産の再生とまちづくりの担い手育成を図るための短期集中合宿「リノベーションスクール」の開催や、2017年3月に策定した「わかやまリノベーション推進指針」に掲載した事業の検討・実施を進めています。

(歓迎をいただいた電子掲示板)

2.和歌山市の先進的取り組み

⑴ 和歌山市の都市経営課題
① 遊休不動産の活用によるまちなかエリアの価値の引上げ
② まちなかのコンテンツの充実
③ 質の高い雇用の創出
④ 財政状況の改善

⑵ 重点エリアの選定と具体的戦略

小中一貫校の開校や5大学の誘致、市民図書館・市民会館の移設リニューアルが進ん  でいること、既にリノベーションまちづくりによる事業化がなされていることから、重点エリアを選定し、具体的な戦略を進めてきました。特に、廃校となる予定だった小中学校の校舎を再利用し、リノベーションして大学校舎として有効活用した例は、まさに全国的にもまれで最先端を行く戦略のひとつであり、すばらしいと思います。以下、具体的な実施例です。資料から抜粋しました。

①質の高い教育機会と子育て環境の創出
②遊休不動産の住宅転用
③都市型産業の振興と質の高い雇用の創出
④民間駐車場の農園等への転用
⑤道路の歩行者空間化
⑥まちなかとフリンジ駐車場や和歌山大学を結ぶ二次交通
⑦河川・水辺空間の活用
⑧水辺周辺の公共不動産の活用
⑨新たなファイナンススキームの構築
⑩まちなかと周辺エリアをつなぐ新たな観光戦略

(写真 フィールドワークで現地を視察 再生した飲食店)

⑶ 「不良空家」の抑制

和歌山市の中心地は、和歌山城の周辺地域であるが、終戦間際の大空襲で城の天守閣もろとも中心地の建物はほぼ焼失し、主要駅である私鉄の南海和歌山駅とJR和歌山駅が街の中心を挟み東西に分かれている。

抱える課題の1つ、郊外への大型ショッピングモールの出店など、まちなかのドーナツ化現象も進み、総務省の「住宅・土地統計調査」をみても、平成5年から和歌山市の空き家数は年々増加し、平成25年には28980戸とされている。平成20年と比較すると、平成25年には一見減少しているようにみえる空き家数だが、内訳をみると賃貸向けが大幅に減少し、そのほかの空き家は増加している。つまり、収益性のない賃貸物件が維持されなくなる一方で、それこそ対応が必要な相続が進まない一般物件は増えているのが窺える。そのため、和歌山市は「不良空家」になることを未然に防ぐ対策に力を入れてきた。

独自の調査では、不良空家を防止するための現状把握という側面が強くあり、実態調査をしながら、補助事業も拡張し、『空き家を活用した三世代同居・近居』や『不良空家の除去』『空き家を活用した地域交流拠点等づくり』などに補助費用を一部提供する事業を進め、本格的な「空き家バンク」を設置し、その活用を推進しています。

 ⑷ リノベーションスクールの成果

和歌山市は、2013年度から6回のスクールを実施し、スクール関係者が携わる事業化案件は17件に上り、家守会社も5社誕生した。第1回のスクール案件であった農園レストランを皮切りに、ゲストハウス、シェアハウス、日本酒バーにステーキ弁当・カフェ、焼き肉屋、子ども向け教室などである。しかも、固定の店舗や事業所としてだけではなく「イベント」の提案も実現し定着した。毎月第二日曜日に開催される手作りとロハスをテーマにした「ポポロハスマーケット」、肉のお店が集まる「ミートフェス」、アーケードをリビング化することを目的とした「クラフト×暮らふとビールフェス」などが行われ、賑わいが取り戻された。これだけの盛り上がりを見せたのは、熱意のある参加者が集まったことももちろんあるが、和歌山市が様々なサポートを行ってきた成果である。融資面では地銀3行に入ってもらい、現実的な事業計画と融資をサポートが事業化を促進できた理由といわれている。

(資料 まちなか再生プロジェクト)

 ⑸ リノベーションで点から線へ「回遊の流れをつくる」 

街の繁華街の中心部「ぶらくり丁商店街」の空き家活用から始まったリノベーション事業は、現在、市の中心部全体に広がっている。地道な活動によって、空き家のオーナーの方々の意識も随分変わってきた。以前はそれこそ空き家は駐車場にするというくらいの認識しかありませんでしたが、リノベーションという手法があることにより、空き物件が価値を持てるのではないかという可能性を少しずつ考えてもらえるようになってきた。和歌山市では、2015年度から毎年、空き店舗に2日間だけお試しで出店する「マチドリ」と呼ばれるイベントを実施して、この2日間に、例えば「和歌山産の新鮮野菜の販売ショップ」や「ハンドメイド雑貨のお店」、「アートを感じる体験型ショップ」に「水辺のカフェ」などさまざまなお店が空き店舗に出店する。この段階ではそれほど大がかりなリノベーションをするわけではないが、それでも簡単な化粧直しで店舗が様変わりするのを目にすることができる。これまで空き店舗を貸したがらなかったオーナーも、賃貸に積極的になることも多いという。空き店舗のオーナーの意識改革にはこうした取り組みも功を奏している。

現在の和歌山市は、リノベーションによりできた魅力的なコンテンツが街に点在している状態。今後はこれを線にするような回遊の流れをつくっていきたいと言う。和歌山市では現在、大学が市街地にしかないため、3大学の誘致や小中一貫校の開校、さらには市民図書館・市民会館の移設リニューアルを進めています。大学が誘致できれば学生はもちろんのこと、教員などの流入に期待ができます。市内の中心部にはファミリー向けの賃貸住宅などはなかったのですが、小中一貫校などができればファミリー層も住まいを求めるはずです。その場合、家守会社の活躍の場となるスタイリッシュな住宅のニーズも高まっていく。このほか、市内には河川が通り、建物に隣接する水辺空間があるにも関わらず活用できていない。そのため、水辺周辺の公共不動産の活用など水辺を生かしたまりづくりを進めているという。

(市役所脇のキッチンカー直売所)

 ⑹ リノベーションを専門とする家守のホームページから抜粋

「未来に『家守』というソリューションを。」

IEMORIは、その地域の特性やニーズに合わせた建築サービスを提供することに重点を置いており、地域の人々との緊密な関係を築きながら、建築プロジェクトを実現します。

地域の文化や風土、気候条件などを深く理解し、それらを踏まえた建築設計や施工を行うことで、より質の高い建物を提供します。

IEMORIは、優れた職人や協力業者とのネットワークを持っており、長年にわたり地域で活動してきた経験とノウハウを生かし、信頼性の高いパートナーと連携しながらプロジェクトを進めます。

地域の建築に関する規制や手続きにも精通しており、円滑な進行をサポートします。

地元の職人や業者との協力により、地域内での雇用創出やビジネスの活性化を促進に取り組み、地域の発展に寄与することで、地域の人々から信頼され、地域経済の活性化への貢献を目指します。

また、建物の完成後も定期的な点検やメンテナンスを行い、長期にわたって安心して利用できる環境を提供するため、アフターサービスにも力を入れています。

地域の住民とのコミュニケーションを大切にし、問題や要望に迅速に対応することで、顧客満足度を高めます。

IEMORIは、地域の特性を理解し、地域の人々との緊密な関係を築くことで、お客様や地域のニーズに応える建築サービスを提供していきます。

(資料を詳しく説明をいただきました)

3.所感

 ⑴特定空き家対策

空き家対策については、2021年の3月議会一般質問の中で取り上げて質問させていただきました。以下、抜粋しますが、本市の空き家対策、特にまちなかのリノベーションには程遠いのが実態としてあります。

〇渡邉議員

崩壊の危険がある特定空き家対策について、建設管理課所管である特定空き家のある地域の町会長から、「地震が起きたのでなおさら、雪下ろしもされていない空き家が、道路や隣接地に倒壊してこないか非常に恐ろしい」と、不安の声が出されました。本市では、「空家等対策の推進に関する特別措置法」及び「寒河江市空き家等の適正管理に関する条例」により、所有者等は、空き家の適正な管理を行う責務があり、市は管理不良の空き家に対し適正な管理、解体などの助言・指導を行うこととされ、老朽化し危険な空き家の除却を行う方に対し、除却費の一部(補助限度額50万円)を補助しているが、これまでの事業実績について、特定空き家対策(指導勧告など)は、行われているのか、お尋ねしました。

 〇佐藤市長

空き家の状況をまず申しあげますと、寒河江市の2月現在の空き家の状況というのは307件というふうに把握をしております。そのうち、5件についてはかなり老朽化が進んだ空き家であるということも確認をしています。 空き家に関しては、その所有者の方が適切に管理をしていくという責任があろうかというふうに思っております。寒河江市は平成25年の7月に寒河江市空き家等の適正管理に関する条例というものを施行し、また、平成30年3月には空き家等の対策計画というものを策定をしておりまして、その計画に基づいて、山形県宅地建物取引業協会寒河江及び山形県司法書士会と合同でいろんな事業をしているのであります。相談会などもさせていただいて、連携をしながら、対策を講じているという状況であります。除却事業の御紹介がありましたが、これまでの実績を申しあげますと、これは寒河江市老朽危険空き家解体事業補助金ということでありまして、補助限度額が50万円ということでありますが、平成30年度は3件でございました。令和元年度は9件、それから令和2年度、現在までの状況ですが、12件ということで、そういう状況で、増えてきているのではないかというふうに、数字の上でなっております。それからあわせて、指導監督などはどうなのかと、行われているのかというような御質問でありますが、指導監督を行うことができるというふうになるわけでありますけれども、勧告については、まだ寒河江市では行ったことはありません。勧告は行ったことはありませんが、令和2年度ではこれまで18件の指導助言というものを行っているところであります。この指導助言を18件実施をしておりますが、この指導助言をするとすぐに解決していくということにはならないんですね。珍しいんですね。逆に少ない。そういうケースは少ないわけでありまして、多くの場合は、相談会に来ていただいたり、それから個別の通知をしたりしていくということで、粘り強く所有者の方と対話をしていく中で、そして、ようやく結果としてその解決に結びついていくという、時間と手間がかかるという作業があるというのも御理解をいただきたいというふうに思います。 そういう意味で、まだ勧告という事態までは行っておりませんが、我々としてもできる限り指導助言などを通じて解決に結びつけていくように努力をしているところでありますので、御理解をいただきたいというふうに思います。

○渡邉議員

 町会長さん方は、独り暮らしの高齢者のところもそうなんですけれども、この無人の空き家の管理については、火災が起きたらどうするとか、事件事故などが起きないかということで非常に不安だということでありまして、特に、今ほど市長からありました令和2年度で18件の指導助言も行われているわけですけれども、ぜひこの切れ目のない指導勧告を行っていただいて、地元の要望を踏まえ、やむなしとなれば、市民の安全のために解体、除却の代執行などもあるいはすべきだというふうな御意見もございまして、そういったところも踏まえて御検討をいただければというふうに思います。

 ⑵ まちづくりの観点

空き家問題の解決に向けて2015 年に空き家等対策の推進に関する特別措置法が施行され、倒壊の危険性がある空き家を「特定空き家」に指定することが可能になったことから、法律上は、特定空き家に対しては、除却、修繕、立木竹の伐採などの指導、勧告、命令、さらには行政代執行ができるのですが、本市も含め全国的に遅々として進まないのが現状です。2019 6 1 日、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法が全面施行となりました。内容としては、反対する権利者がおらず、建築物がなく、現に利用されていない所有者不明土地が対象で、都道府県知事が利用権を設定して、残った土地を公園や直売所など地域福利増進事業として利用できるようになりました。さらに、公共工事の妨げになっている所有者不明土地は、各都道府県の収用委員会の審理を経ることなく「所有権」を取得できるのです。令和3年4月 21 日、所有者不明土地の問題を解消するための改正民法と相続土地国庫帰属法が成立し、土地や建物について相続を知ってから3年以内の登記を義務付け、望まない土地や利用価値が乏しい土地を相続して手放したい人は、不要な土地を国庫に納付できるようになりました。さらに、令和3年6月30 日、政府は空き家対策特別措置法の基本方針とガイドラインを改正しました。つまり、将来著しく危険や不衛生になりそうな空き家も特定空き家に含めることができるのです。空き家の所有者が特定できない場合は、市町村長が不在者財産管理人又は相続財産管理人の選任の申立てを行なうことができるのです。こうした新たな法整備の一方で、空き家問題が解決しえなかった原因と今後の効果的展開を探ることが喫緊の課題となっています。

 4.補助制度の見直し提言(試案)

過去にオンラインにて行政視察した兵庫県神戸市の先進事例は、まさに画期的なものでした。これまでの経過や歴史で空き家問題のネックであった税制優遇(固定資産税の特例措置→税額6分の 1 に軽減されるなど)の廃止など、これまで優遇措置を停止できるのは、倒壊の危険があるなどの条件があったが、利活用の見込みがない全ての空き家について、固定資産税の税制優遇を順次廃止しました。税負担が増すことで、所有者の早期の対応に期待するとともに、空き家に伴う防犯・防災での課題に対応するとともに、土地や建物の利活用にも生かしたいとのことでした。2021 年度から全ての空き家について固定資産税の税制優遇を廃止した結果、所有者は従来の3・5倍程度の固定資産税を払うことになり、通知をきっかけに所有者と交渉を重ね、空き家の再利用や土地の利活用に繋げています。初年度は 60 軒の空き家を指定して税優遇を取り消す一方で、所有者の空き家改善に対して、専門家派遣・相続調査・剪定伐採・解体除却など様々な補助金を用意しています。こうした「アメ」と「ムチ」のリアル二刀流で解決していくこともひとつです。

また、過去に視察した大江町の空き家バンクへの登録は、空き家の中に家財が存置されていても、今後の処分費用や清掃費用まで補助対象としながら空き家と見做します。本市では家財が存置されていると空き家と見做さないために、空き家バンクへの登録がわずか1件(令和4年9月時点)となっており、本市の空き家の定義がネックになっているという問題があります。この問題点については、何らかの解決が必要で、大江町のような家財処分や清掃費用に対する何らかの補助金新設も必要なものと考えます。(本市では、2024年度から一部改善されたものの)全国的にも、管理不全の空き家空き地の解消について、法令に基づく迅速かつ的確な対応に加え、所有者等が抱える様々な問題を把握し、解決に向けたきめ細やかな支援を実施し、所有者不明などとなった空き家空き地への対策を進めております。本市においても、まだまだ利活用可能な物件について、空き家バンク登録を促していかなければなりません。さらに、今後の課題として、空き家の付加価値について、もっと商談の際の強みにできないかということです。つまり、敷地内の車庫、物置、家庭菜園、小屋、除雪スペース、隣接地とのグリーンベルト植栽など、農村部や旧市内の良さを十二分に売り込んでいくべきだと思っております。ありきたりの宅地分譲地で言葉は悪いですが、狭い思いをするウサギ小屋生活よりも、のびのびと自由空間を満喫できる農村部の空き家を利活用したあたたかい人間性のある生活に向けて見直していただきたいからです。2022年8月6日県内一斉に空き家相談会が開催されましたが、こうしたことを継続して、民間を支援していく必要があります。

コロナ禍で高まった「二地域居住への関心」について、興味深いニュースを目にしました。それは、拠点生活を行っている人は、調査対象の 6.6%(推計約617 万人)、 今後複数拠点生活を行いたい人は、同じく 7.1%(推計約 661 万人)で、望む地方暮らしのスタイルは、都市部と地方圏のどちらにも生活拠点をもつ「二地域居住」が、地方圏のみで暮らす「移住・定住」の割合を超すことがわかりました。2020 年7月〜2021 年2月にかけて、8ヶ月連続で東京都から他県への転出超過が続いています。コロナ禍で8割の企業がテレワークを導入し、テレワーク経験者の 24.6%が地方移住への関心が高まっており、今後求められるのは、住まいや移動の費用負担、勤務・労働環境の制約、住民票に基づく住民サービスの制度面などが課題です。本市では、空き家を利活用した「さがえ心地体験住宅『さがえベース』」のホームページでの紹介や利用者募集など、積極的に移住・定住の政策が進められています。さがえベースは、市外在住でワーケーションを行いたい方や移住を検討している方、起業・就農を考えている方に向けた生活体験ができる施設です。大都市等で働いている方がワーケーションにより本市との関係を築くことや、本格的な移住の前に地域での生活をイメージするための生活体験などへの活用を呼びかけています。今後、本市の空き家利活用について、仙台圏や北関東圏などをターゲットに二地域居住への関心についてニーズを把握していく必要があります。そして、空き家バンクを通じて、本市の魅力を発信しながら、リノベーションできるこれらをもっと前に進めていくようにすべきです。

また、少子高齢化が進み、ひとり暮らしの高齢者が施設入居した場合に、空き家となるケースが増大していることから、「終活」のひとつとして、予定相続人に対する専門家のアドバイスを行っていくことが重要です。空き家防止対策について、先進地の施策を参考に、専門アドバイザーによる助言指導についても重点にしていく必要があります。生活支援コーディネーターとタイアップして、バリアフリー住宅改造のほか、残される不動産の活用ないし処分について、生前の話し合いを進め、空き家の未然防止策を具体化していくべきです。

 

5.むすびに

最後に、今回の行政視察は、本市の施策を検証し、先進地和歌山市の取り組みを学ぶ 非常に有意義な視察でした。和歌山市及び議会事務局の皆様、大変ありがとうございました。

(写真 和歌山市議会議場にて 筆者は左端)