視察先 :和歌山県有田市
視察内容:有田市農業次世代人材投資事業「アグリリンク イン アリダ」について

1.はじめに

有田市は和歌山県の北西部、有田川の河口近くに位置する、海・山・川の自然に恵まれたまちです。市の中心を流れる有田川は、高野山を源として紀伊水道に注ぎ、その流域には平野が開け、市内は、南北の山腹ともに多くはみかん畑となっています。

農業の中心は、40年来の歴史と伝統を持つ有田みかん。京阪神を中心に、中京、関東、東北、北海道など多くの市場関係者や消費者の皆さんからおいしいと高い評価を得ています。

本格的なみかん栽培が始まったのは江戸初期からで、紀州侯の庇護、恵まれた気候、農家の勤勉によってみかん王国の基礎が築かれました。恵まれた気候、農家の努力、そして厳しい出荷時の品質管理です。今、消費者や市場関係者の注目を集めているのは、味一みかんです。最新鋭の選果機を導入し、色は全体にみかん色に着色し、糖度12.0以上、酸度0.81、大きさは2LS、見栄えの等級は秀、優とするなど厳しい品質管理の賜です。温州みかん(早生みかん、普通みかん)、夏みかん、はっさく、ネーブル、いよかん、清見オレンジなど、時季に応じておいしく食べていただける柑橘がたくさんあります。また、味一みかんよりもさらにおいしい味一αの生産拡大、消費普及に努めています。

本市のさくらんぼにこだわったまちづくり同様、認定有田みかんに力を入れていますが、本市より早く日本初の市職員によるミカン収穫時期の農作業を副業として認め、職員自身が労働力不足解消に向けて、ミカン農家とタイアップしています。

このような日本最先端の先駆的農業施策を進めておられる有田市が本市議会総務産業常任委員会を行政視察として受け入れていただいたことに、心から感謝申し上げます。

(市議会議長ごあいさつ)

2.有田市の取り組み

AGRI-LINK」は価値ある土地と農家の誇りを未来に残す、新規就農者、農地提供者、受け入れ農家それぞれがメリットを享受できる、三方よしの就農モデルです。有田市と協働して一次産業分野における課題解決支援スキームの実証実験を進めるなかで(これまでの取組はこちら)、農地提供者(農地の削減や廃農を希望している農家)からは「土地が荒れると周りの農家に迷惑がかかるので、辞められない」、受け入れ農家(農地を拡大したい農家)からは「廃農しそうな農家は分かるものの、こちらから聞くのは失礼なので、聞けない」、新規就農者からは「収入や初期費用の不安、農地確保が難しいなどの理由で、やりたいけど、できない」などの声があがり、第一産業に関わるそれぞれのリアルな課題が明らかになりました。それらの課題を受け、リクルートのマッチングノウハウを活かした包括的就農支援スキーム 「AGRI-LINK IN ARIDA」を構築しました。

(写真 有田市のみかん人気キャラクター「ありだくん」が設置してある箕島駅にて)

3.若い就農者確保対策 「AGRI-LINK IN ARIDA」の特徴

リクルート社と提携して人材確保を進めている先進事例

⑴事業継承マッチング

新規就農者は独立後、農地提供者と農地賃借契約を結ぶことで、自分で新たに農地を探すことなく、 農地を継承できる。また、農地提供者は、所有する農地を残すことができる。

⑵就労、技術マッチング

新規就農者と受け入れ農家が業務委託契約を結ぶことで、新規就農者は、受け入れ農家から技術習得や農機具の貸与を受け、技術習得をしながら、業務委託料として収入を得ることができる。

⑶農地マッチング

農地提供者と受け入れ農家が管理委託契約を結ぶことで、農地提供者は、地元の信頼ある受け入れ農家に大切な農地を管理してもらうことができる。受け入れ農家は、農地拡大のための農地を改めて探す必要がなくなる。

以上の3つのマッチングにより、農地提供者は農地の管理における不安の払拭、受け入れ農家は出荷量の増加による売上利益の増加、新規就農者は初年度から生活の見通しが立ち、3年目に農地付きで独立できるようになります。

新規就農者の収入モデル(みかん農地1haの場合)新規就農者の方には、1人あたり1ha程度の農地を有田市が確保します。農地1haの売上想定額は約360万円。受け入れ農家の利益や諸経費を引き、新規就農者は、年間250万円~300万円が収入として得られる想定です。

本市のさくらんぼ農家の新規就農者を想定した場合、売上総定額から経費を除算した収益性は非常に低いことから、単純に比較はできませんが、非常に魅力あるそして持続可能な果樹栽培及びその戦略的経営が可能であることは素晴らしいことです。

 4.その他の先進的取り組み

新規就農年間100人が問い合わせに来る、有田市の魅力。

⑴「みかんと生きる」 キャッチフレーズ

おいしいみかんは関わる人みんなを笑顔にします。自然豊かな有田市で、自分らしくみかん農家として働いてみませんか?有田市は農業を始めたい方を 支援するしくみがあります。

 

⑵「認定みかん制度」

全国有数のみかん所である有田市内で栽培され、抽出検査で、平均して糖度12度以上、酸度1.0%以下等厳しい品質基準を満たし、味や外観、バランスに優れ、味覚審査に合格したみかんです。

認定品に対する抜き打ち調査や認定取り消し等の罰則規定を設ける等、適切な管理体制のもと認定しています。

 

⑶議長のご挨拶にありました「紀伊国屋文左衛門」の

みかんを運んだ「ぼんてん丸」伝説 

について、資料から抜粋し、調べてみました。

(写真 市役所に掲げられている木造船模型)

資料によると、ミカン船伝説とは、文左衛門が20代のある年、紀州は驚くほどミカンが大豊作だった。収穫されたミカンを江戸に運ぼうとしたが、その年の江戸への航路は嵐に閉ざされていた。江戸へ運べなくなり余ったミカンは上方商人に買い叩かれ、価格は暴落した。当時江戸では毎年鍛冶屋の神様を祝う「ふいご祭り」があった。この祭りでは、鍛冶屋の屋根からミカンをばら撒いて地域の人に振舞う風習があったが、紀州から船が来ない事でミカンの価格は高騰していた。

紀州では安く、江戸では高い。これに目をつけたのが文左衛門だった。早速文左衛門は玉津島明神の神官で舅の高松河内から大金を借りてミカンを買い集め、家に残ったぼろい大船を直し、荒くれの船乗り達を説得し命懸けで嵐の太平洋に船出した。大波を越え、風雨に耐えて何度も死ぬ思いをしながら、文左衛門はついに江戸へたどり着く事が出来た。この時の様子が「沖の暗いのに白帆が見ゆる、あれは紀ノ国ミカン船」とカッポレの唄に残った。

ミカンが不足していた江戸でミカンは高く売れて、嵐を乗り越えて江戸の人たちの為に頑張ったと、江戸っ子の人気者になった。大坂で大洪水が起きて伝染病が流行っていると知った文左衛門は、江戸にある塩鮭を買えるだけ買って先に上方で「流行り病には塩鮭が一番」と噂を流し上方に戻った。噂を信じた上方の人々は我先にと塩鮭を買い求め文左衛門が運んできた塩鮭は飛ぶように売れた。紀州と江戸を往復し大金を手にした文左衛門は、その元手で江戸に材木問屋を開く。こうして文左衛門はしがない小商人から豪商へと出世、富と名声を掴んだ。

 

 現在のふるさと納税返礼品やネットによるオンラインショッピングなど、時代は変わったわけですが、変わらないのは、経済の好循環です。今月から新紙幣に代わった節目を迎えたわけですが、先人たちの農産物、海産物の販売に努力した結果と言えます。

(写真 市役所1階玄関の木札)

5.所感①

先に開催されました6月定例会におきまして、本市の若い就農者の人材確保に向けた取り組みの関連施策として、さくらんぼの魅力アップを提言いたしました。

さくらんぼ会館の改築もそのひとつです。さくらんぼ植樹150年の歴史を後世に伝承できる貴重な資料展示について提言しました。県では、来年度、150周年記念イベントとして、山形県のさくらんぼ栽培の歴史を振り返り、次の50年を展望する企画展示やキャンペーンを実施します。期間中においては、果樹生産・販売事業者との連携イベントやコラボ商品の販売等の関連企画を展開します。 また、 全国に向けて「さくらんぼ栽培150周年」を周知するためのPR資材を作成し、活用を促します。 さらに、 本県のさくらんぼ栽培150年の歴史を始め、品種、栽培技術等についての知見の集大成となる記念書籍を刊行します。本市のさくらんぼの歴史については、故宇野啓先生が執筆発刊されたものに集約されておりますが、後世に伝承できる貴重な資料について、現在はさくらんぼ会館の一角に展示されております。このような歴史文化資料館について、パブリックコメントにも市民が提案されていますが、本市の歴史文化振興検討委員会のご助言等を踏まえ、さくらんぼ会館改築にあたっての中心となるコンセプトとすべきと考えます。

さらに、動画を放映するシアターやイベントホール、芸術作品展示ホール等について提言しました。私は以前、旅行先として鳥取県を訪れ、特産品である20世紀ナシの歴史や品種改良の技術を刻んだ鳥取県倉吉市にある観光施設「なしっこ館」を見学しました。本市の道の駅チェリーランドをグレードアップさせたような魅力ある施設で、シアターやイベントホール、芸術作品の展示ホールを併せ持つ公共複合施設でした。チェリーランド再整備計画では、イベント広場やチェリードームに代わるものがくらっぴんさがえに整備されたところです。地域の芸術家による芸術作品を展示することができるホールがありますが、さらなる充実した機能が期待されております。こうした慈恩寺テラスのようなシアターや多目的ホールについて、道の駅機能を含むものを新たに整備すべきと考えます。

また、農産物物販及び飲食コーナーについて、農産物加工品として大変人気のジェラート・アイスの販売コーナーや農産物の販売コーナーについて、農家や農協から期待されておりますので、さらにグレードアップして整備していく必要があります。 

有田市の先進的取り組みに学び、さらに本市のさくらんぼをはじめとする果樹栽培を若い農業者に受け継いでもらうための欠かせないハード整備です。

 6.所感②

「県産フルーツのプロモーション強化」の基本的な考え方として、令和5年の「やまがた紅王」本格デビューから令和7年の「さくらんぼ栽培150周年」までの3年間を重点プロモーション期間と位置付け、この間、ニュースバリューを活かしたイベントやキャンペーンを集中的に展開します。 県外に向けては、統一感を持ったブランド戦略を推進しながら、そこに県産フルーツのストーリー性を併せて発信することにより、認知度を高めるだけでなく、認識を深めることを目指します。この間を通して、県民に向けては、さくらんぼ栽培150年の歴史を知り、郷土への誇りや愛着を深められる機会を提供します。また、産地を巻き込んだ取組みにより、果樹農家の生産意欲の向上に結び付けていくことを目指します。 以上の取組みを通して、既に高い認知度を誇るさくらんぼのみならず、全国シェアの高いその他の主要果樹を含む「果樹王国やまがた」総体としての認知度の向上に結び付けていきます。

  さらに、新しい視点から、フルーツを食品や観光、デザイン、工業、ICT、交通、エンタメなど様々な産業と結びつける取組みや、さくらんぼとフルーツの新しい消費文化の創出に繋がるような取組みを実施し、「フルーツ・ツーリズム」に繋がる山形発のコンテンツや体験価値が創出される基盤づくりを目指す、としています。計画の中で一番重要で期待されていたものは、全国から本県本市にお越しになった観光客や消費者との交流の機会を増やし、6次産業化で開発した加工品の試作品をフルーツステーションのレストランやフルーツパーラー・カフェなどで、実際試食していただいた感想や意見をもとに、若手果樹農家がやる気をもって果樹農業に向かっていくことでした。そうした施設、貴重な機会が少なくなることは、せっかくの生産意欲を削いでしまうのではないかと思います。

今回、有田市の先駆的取り組みは、こうした施設や制度を積極的に整備していくことに間違いはないと、改めて自信と確信を抱きました。

 7.むすびに

若手就農者を増やすため、全国に情報発信し、先進技術を取り入れることなど、フルーツ・ツーリズムの施設の重要性について、具体的な施策を考えるうえで、有田市の人材確保の取り組みは大変重要です。本市で取り組むべき課題を明確化し、すぐにスピード感をもって取り組んでいかなければならない、そのために全力を傾けていかなければならないと、固く決意しました。

最後に、本市議会行政視察を快く受け入れていただき、おいしい100%しぼりたてミカンジュースでおもてなしいただきました有田市職員の皆様に、衷心より感謝申し上げますとともに、引き続きご指導ご鞭撻賜りますようお願い申し上げます。

(資料を詳しく説明をいただきました)